しかし、後に会計帳簿の一部とみられるコピーが、「長野県」調査委員会のもとに渡る。
後藤さんは言う。
「善良な役人気質の人が残しておいたのでしょう。役人は自分の身に降りかかったことを証明するために、必ず残しておく習性がありますから」
こうして出てきた「マル秘」と印字された帳簿のコピーから、調査委員会は、招致活動における使途不明金の存在を発見した。
◆約9000万円の「使途不明金」
「91(平成3)年6月のイギリス・バーミンガムでのIOC総会で、拡大招致委員会は、直接経費だけで3億6405万円を使っていたとされている。しかしその中に、約9000万円の使途不明金が存在していたのである」
調査委員会がまとめた報告書には、こう書かれている。
調査委員会が「91(平成3)年度の支出記入帳のコピー」と期間中の招致活動経費をまとめた「第97次IOCバーミンガム総会招致活動概要」を突き合わせたところ、招致委員会の事務局長名で、総会前に2億2500万円が「資金前渡し」として現金で持ち出され、帰国後に約1億3500万円が返金されたことがわかった。結果、差額分の約9000万円が未返却だったため、調査委員会はこれを「使途不明金」であると認定した。
事務局長は、2億2500万円を必要資金として八十二銀行でドル紙幣にして「英国に持ち出した」として、調査委員会に次のように説明していた。
「外貨持ち出しの申告限度以内にするために、大勢の同行者で小分けにして出国したが、コワかったし現地到着まで緊張した」
「現地のホテルでは、そのドル紙幣を一カ所に集め、八十二銀行の人に管理してもらった。帰国に際して、残金はドルのまま持ち帰り、為替レートの有利なときに円転換すべくドルで保管していたので、清算が遅れた」
前出の後藤雄一さんは、同じく調査委員会のメンバーだったジャーナリストの黒木昭雄さん(故人)とともに事務局長に聞き取りをおこなっている。そのときの様子をこう振り返る。