「私と黒木さんとで根掘り葉掘り聞きました。金を持ち出したにもかかわらず、最後までとぼけていました。覚えていないというより、知らぬ存ぜぬを突き通していた。小分けにして持ち出したという証言をもとに同行者に確認すると『持って行っていない』と言い、国内で処理されたのか、何をしたのかということは、口が裂けても言えないといった様子でした」

 この前払い資金の支払先について、納得のいく説明は得られなかったという。

 さらに、当時バーミンガム総会に同行した八十二銀行の行員は、「約1万ドルの現金を管理していた」と証言。持ち出したとされる2億2500万円は、当時の為替レートで換算すると約167万ドルになるため、つじつまが合わない。他の同行者に確認すると、「小分け」にして持ち出した記憶の持ち主もいなかった。

 調査委員会では、使途不明金についてはこれ以上解明できなかった。

調査委員会の質問に対して八十二銀行が行員にヒアリングした際の回答
調査委員会の質問に対して八十二銀行が行員にヒアリングした際の回答

◆スタジオ6をめぐる「疑惑」

 報告書では、IOC委員への集票活動があったのかどうかについても言及されている。そのカギとなるのが、スイスの広告代理店「スタジオ6」。のちに「集票を請け負う仲介人」としてマーク・ホドラーIOC理事(当時)が告発した、ゴラン・タカチ氏が経営する会社だ。ゴラン・タカチ氏は、IOCサマランチ会長のアドバイザーであったユーゴスラビア国際陸連副会長の息子だ。

 招致委員会は90年、「スタジオ6」とエージェント契約を結んだ。契約金は45万スイスフラン(当時の日本円で約4500万円)。うち15万スイスフランは、長野での開催が決まった際に支払われる「追加支払い」とされた。この「追加支払い」は「成功報酬」であった疑いがあると調査委員会は指摘している。

 ただし、調査委員会は「スタジオ6が、長野オリンピックの招致活動において集票活動をおこなったかどうかは不明」と結論づけている。

 招致委員会とスタジオ6との契約につながるやりとりは、89年7月の「第7回招致連絡会」の議事録に残されている。招致委員会幹部が「他の候補都市の情報、IOCの情報、スケジュール、会議の出席者はどうなっているか等の情報が欲しい。スイスに専門的なマーケティングの会社がある。これと接触している。情報機関とのパイプが必要である」と提案すると、猪谷千春IOC副会長(当時)は、「これはスタジオ6か」「その会社の社長の父はIAAFの副会長でサマランチ会長の個人的なアドバイザーである。プレゼンテーション等の仕方も熟知している。この会社の右に出る者はいない」と回答している。

「第7回長野冬季オリンピック招致連絡会議議事録」から
「第7回長野冬季オリンピック招致連絡会議議事録」から
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当時のJOCによるヒアリングに竹田恒和氏も加わる