「静かで控えめ」は賢者の戦略──。そう説くのは、台湾出身、超内向型でありながら超外向型社会アメリカで成功を収めたジル・チャンだ。同氏による世界的ベストセラー『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』(ジル・チャン著、神崎朗子訳)は、聞く力、気配り、謙虚、冷静、観察眼など、内向的な人が持つ特有の能力の秘密を解き明かしている。騒がしい世の中で静かな人がその潜在能力を最大限に発揮する方法とは? 本稿では、本書より内容の一部を特別に公開する。
猛烈に怒鳴り始めた相手
あるとき、となりの部門のSと私の部門のMが、オフィスの廊下で激しく言い合っていた。
私はMの上司として、両名とSの上司に対し、会議室で話をはっきりさせましょう、と声をかけた。
みんなで重い足取りで会議室へ入っていったとたん、たがが外れたように、SがMと私に向かって、猛烈な勢いで怒鳴り始めた。
私は上司として仲裁すべき立場だったが、あまりの権幕に度肝を抜かれてしまい、まともにものを考えられなくなってしまった。無意識に自分を守ろうとして、脳内の防衛機制が働いたかのようだった。
目の前で破裂している感情の爆弾から、身を守らないと……。だが、会議室に逃げ隠れできる場所などあるはずもない。
私はただ突っ立って、耳を傾けるしかなかった。Sは相変わらず延々と集中砲火を浴びせ、私に口をはさむ隙も与えなかった。
あまりにも非理性的な振る舞いをこれでもかと見せつけられているうちに、Sには本当に言いたいことなどあるのだろうか、ただ怒りをぶちまけて、ストレスを発散したいだけなんじゃないか、と思えてきた。
冷静な一言で「現状の確認」をする
私はSがマシンガンのごとく怒鳴るのをやめるまで待ち、Sの上司のほうへ顔を向け、落ち着いた口調で言った。
「すみません、それでいま、いったいどういう状況なんでしょう?」
あとから聞いたことだが、まさに私のこの発言によって、その場の空気が一変したらしい。
それまでずっと、Sは人を見下した態度で、私のことを非難し続けていた。
だが私はこのひと言で、穏やかながらきっぱりと、ふたつのことを伝えたのだ。
第一に、この状況について、落ち着いて説明すべきなのはマネージャーであり、みんなで大騒ぎして怒鳴り合ってもしかたないこと。
第二に、感情をぶつけてもかまわないが、最終的には理性的に話し合わなければならないことだ。
実際には、あのときの私はそこまで考えていたわけではない。Sのあまりの権幕に茫然としてしまっていた。
だが私の発言によって、Sの上司は、部下にこれ以上好き勝手に怒鳴らせていては、どうにもならないと気づいたのだ。
こうしてやっと普通のやりとりができるようになると、私にも、ことの次第が理解できた。そして、問題の核心もつかめた。メールの文面の解釈がそれぞれ違っていたことが大本の原因だった。
そこで、私は個別のやりとりで行き違いが生じるのを防ぐために、グループ間でやりとりする方法を体系化するなどの改善策を提案した。
こうしてやっと、事態は無事に収拾した。(中略)