■いま感じていることを表現する
きっかけは今年2月、東京・吉祥寺にある写真集専門店「ブックオブスキュラ」で開催した写真展だった。
昨年11月、それ向けての作品選びをしているうちに、「あっ、これは本にしたほうがいいな」と思った。
その後の行動が実に速い。
「12月上旬に印刷会社に行って、『こんな感じの本をつくりたい』と相談して、見積もりを出してもらって、『じゃあ、つくっちゃおう』と。年末ギリギリに入稿して、1月末にはもう刷っていた。まあ、勢いみたいなもんでつくった本なんです」
長い年月をかけてつくる写真集がある一方で、このように「わっと、やっちゃう」ものもあり、「あまり寝かせないというか。自分がいま、感じていることを表現する」。
この本に掲載した作品は、「普段から撮っている膨大な数の写真のなかから『眼の歓び』をくくりとして選んだ38点」。
何かテーマを決めて撮影し、それを見せたいという気持ちはあまりなく、「それよりも、この写真を見た人が何かを感じる、作用する、ということを常に目指している」。
そんなわけで、編集の方針が決まった時点でそこにどんな写真が入るのか、さらに、どんなふうにプリントするかが固まっていく。
「同じような写真でもプリントで変えていくんです。そこはすごく自覚的にコントロールしている。この世界観はこの色だよね、と思ったら、もうその色にしちゃう。色はフィクションとしか考えていないです」
■作品を勝手に感じてほしい
先にも書いたが、被写体にはある意味、関連性がなく、なんだかよくわからない写りのものもある。
それについて聞くと、「うーん、そこはいくら説明しても……」と言い、わかりやすい説明でお茶を濁すのではなく、正直に胸の内を明かそうとする。
「何が写っている、ということよりも、自分がこの写真を見たときに、どんな感じに目がよろこぶのか、指がよろこぶのかを基準に写真を選んでいる。その質のトーンみたいなものはそろえているつもりです。ただ、言語化できないものを目指しているので、それ以上のことは言葉で説明することはできないです」