女性宮家は創設すべきか、女性天皇は認められないのか。皇室問題はいま、大きく揺れている。工藤隆『女系天皇』はそんな議論に一石を投じる快著。
天皇は古来、万世一系の男系によって継承されてきた。と私たちは聞かされてきた。でも、その「古来」っていつ?
『古事記』『日本書紀』だと人はいうけど、じゃあその前はどうなのか。無文字文化時代まで視野に入れて考えないと話にならぬと著者はいう。軍国主義の時代、皇室の歴史は紀元前660年にはじまるとされていた。紀元前660年って縄文時代末期か弥生時代初期だぞ。
古代には「古代の古代」と「古代の近代」があって、「古代の古代」は文字がなかった縄文・弥生・古墳時代。「古代の近代」は文献資料が残る西暦600年前後~奈良時代。記紀が編纂されたのは「古代の近代化」が進んだ時代で、当時の日本は先進国である唐の思想を手本にしていた。つまり記紀の天皇の系譜が男系に整えられているのは<唐皇帝の男系男子継承を模倣した>結果。創作や改変や捏造もされた可能性がある。
それ以前の「古代の古代」の時代には、王の継承は父系も母系もないまぜだった。それを証明するのに著者は文化人類学的手法を用い、中国西南部で、長江流域の少数民族の族長の系譜の調査まで行っている!
「古代の近代」の思想を明治の大日本帝国憲法が明文化し、軍国主義下の日本はそれを絶対視し、戦後の新憲法や皇室典範もその呪縛から逃れられなかった。だから<まず唐文化の絶対視・模倣を停止すべきである>と本書は提言するのである。
女性天皇問題が政治的案件として浮上したのは小泉純一郎内閣時代。2005年、「皇室典範に関する有識者会議報告書」は女性天皇、女系天皇への道を開くのは不可欠と結論づけた。<大宝律令の時代には、女性天皇はもちろん、女系天皇も容認されていた>のであれば、女性を排除する理由はないよね。
※週刊朝日 2021年4月2日号