コロナ対策のまずさに長男の総務省幹部接待問題などが加わって、支持率急落中の菅政権。

 森功『菅義偉の正体』は、周辺の人々への取材はもちろん、官房長官時代の現首相へのインタビューも含めた本格的な人物ルポルタージュである。

 菅義偉はおもしろくもなんともない人物だなあというのが菅の著書『政治家の覚悟』を読んだときの感想だった。本書から得られる感触も同じ。政治家で、傑出したエピソードがこれほど少ない人物も逆に珍しい。

 家にいると農家を継がせられそうだったからという理由で郷里の秋田を飛び出した菅は、人脈頼りに仕事をしてきた人である。政界入りのキッカケは、大学の就職課を通じてたまたま小此木彦三郎議員の事務所を紹介されたから。横浜市議時代に「影の横浜市長」と呼ばれたのは運輸や建設業界での人脈づくりによるもの。中央政界で頭角を現したのは小泉政権時代の総務大臣・竹中平蔵に副大臣に指名されたのがはじまりで、NHK改革などによるメディア支配も対沖縄政策もこれといった定見なく進められた。

 菅に好意的な人は「実務型政治家」といい、反感を持つ人は「格差社会を広げる新自由主義者」と批判する。だが著者は<取材を続けていると、どちらでもない気がしてきた>という。

 菅が自身の手柄とするインバウンド観光の推進は民主党政権時の前原誠司国交大臣が構想した政策。ふるさと納税は竹中平蔵のブレーンだった元財務官僚の高橋洋一が提案したもの。

<菅さんはブレーンが提案する政策にパクッと食らいつき、それをそのまま実行しているだけです。だから細かい話が多く、大枠として何がやりたいのか、ビジョンが明らかでない。政策に対するこだわりや深い考えを感じたこともありません>

 ある官僚による右の言葉がもっとも的確に思われる。安倍内閣を引き継いだ<姑息な「居抜き乗っ取り内閣」>。いま苦戦しているのは当然かも。

週刊朝日  2021年3月5日号