1980年に出版されたエッセイを加筆修正の上、再刊したものだが、図らずもこれが遺作となってしまった。一時代を画した作詩家であり、作家としても活躍したなかにし礼が、実践的な作詩術を披露している。あえて作“詩”と銘打っているのは、“詞”を貶めようとする世間の風潮に抗う意識的なものだ。
著者が一世を風靡していた時代から見ると、流行歌のあり方は大きく形を変えた。しかし、時代の変化には影響されない不変の法則もある。歌が「空気中にただよう」ものであると説く著者は、それがやがて消えていくものであることもわきまえながら、なおも時代を超えて永遠に残るものを求めつづけていた。
「男はみんな華になれ」の作詩過程を赤裸々に明かしたくだりは、一篇の詩を書くのにどれだけの無駄や試行錯誤が必要なのかがまざまざとわかって目が離せない。(平山瑞穂)
※週刊朝日 2021年2月12日号