現在では、同化を強いられたアイヌのことを存在しないと誤解している国民も少なくない。「ウポポイは、アイヌに対する理解の深化と、持続的なアイヌ政策の確立に貢献すると思います」。現状、アイヌに対する国民の理解は高いとは言えないため、国民の適切な理解を得ることで、アイヌへの手厚い施策につながっていくという。「ウポポイでの啓発のみならず、義務教育でのアイヌに関する記述の充実化などの取り組みを通じて、和人の文化との違いやアイヌの歴史を知ってもらうことが共生の鍵になるでしょう」
■アイヌ主体の展示を
失われつつあるアイヌ文化を次世代へ継承、発展させる啓発の拠点としての働きが期待されているウポポイ。その中心施設である、国立アイヌ民族博物館の佐々木史郎館長に展示の特徴や狙いを聞いた。
「まず重視したのは、アイヌ目線での展示です」と佐々木館長。「館内の第一言語をアイヌ語にし、アイヌ語の解説文を日本語よりも上に配置しました」。アイヌ語には統一的な書き言葉がなく、方言によって表現が多様だ。これをあえて統一せず、解説文ごとに異なる地域の方言を用いたという。またアイヌ語のネイティブ話者はほぼいないため、現代的な事物に対応した語彙はアイヌ語学習者と言語学者の協力で作った。
また、解説文の主語は「私たち」と、アイヌの目線で記述されており、和人からの目線ではない。自分たちの文化を自ら語る「主体性」を強調したという。
解説文の展示にはアイヌの学芸員も多く参画し、多様な意見が反映されている。例えば、若い学芸員からの「アイヌの古い伝統だけでなく、アイヌの今を知ってほしい」という意見を受けて、チセ(アイヌ語で家)の解説文には現在のアイヌが近代的な住宅に住んでいることを付記した。佐々木館長は「博物館でアイヌの伝統的な文化のみに触れるとアイヌが今でも展示のような生活を送っていると誤解されることがあります。アイヌが身近にいないからこそ生じる誤解です」と指摘。現在のアイヌの多くは近代的で、和人とあまり変わらない暮らしぶりで、同じ今を生きていることを知ってほしいと話す。