巷ではカマラ・ハリスさんが人気だけど、先輩格のこの人も忘れちゃいけない。ルース・ベイダー・ギンズバーグさん。米国のリベラル派の判事。27年間にわたって連邦最高裁判事を務め、9月18日に87歳で死去した際にも大きく報道された。

 ジェフ・ブラックウェル&ルース・ホブデイ編『ルース・ベイダー・ギンズバーグ』(橋本恵訳)は彼女のインタビューを収めた手軽に読める本だ。

 1956年に彼女がロースクールに入学した際、全米の弁護士に占める女性の比率はわずか3%。500人の新入生のうち女子は9人だった。首席で卒業するも、女性でユダヤ人、しかも子どもがいたために就職は困難を極め、学究に転じた。

 50年代は赤狩りの嵐が吹き荒れる暗黒の時代だったが、<一九六〇年代後半に女性運動が活気づいた時、精力的に取り組みたいのはこれだって、わかったんです>。<一九七〇年代に法曹界にいられたのは、大変な幸運でした。一九七〇年代には、アメリカ史上初めて、女性が才能を生かすのを阻む障壁を、崩せるようになったのです>

 幸運はまだあった。母親が先進的な思想の持ち主だったこと。考えを同じくする最愛のパートナーと出会えたこと。性差別をめぐる裁判では最高裁で争った6件中5件で勝ち、80年にはカーター大統領が要職に指名。93年にはクリントン大統領が彼女を連邦最高裁判事に指名した。こういう大統領がときどき出てくるのが米国の強みよね。

<一九八〇年から、私は一度も料理をしていません>と笑い、若きリーダーに贈る言葉は<自国を繁栄させたければ、女性に投資するべきです>。仕事を円滑に進める秘訣は<時々、耳が遠いふりをするといいわよ>という義母から教わった言葉。悪口は聞き流せ、と。

「信念は社会を変えた!」というシリーズの一冊で、対象読者は中学生。大人には物足りないボリュームだけど、お子様やお孫さんといっしょにどうぞ。

週刊朝日  2020年11月27日号