
日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、名店店主が愛する一杯を紹介する本連載。ロックに憧れて上京し、ラーメンに命をかける職人が愛するのは、大好きなレゲエを聴きながらこだわりのラーメンを作る店主が紡ぐ一杯だった。
■ラーメン作りは「エンターテインメント」だ!
横浜市南区にある「流星軒」は、矢沢永吉一筋40年の平賀敬展(ひろのぶ)さん(58)が営む人気店だ。ロックンローラーを目指して18歳で上京し、バンド活動をしながら職を転々。横浜の名店「くじら軒」の味に惚れ込み、38歳でラーメンの世界へ。2000年に「流星軒」をオープンした。

独学でラーメン店を始めた平賀さんは、「くじら軒」にインスパイアされて作り上げた支那そば一本で営業してきた。雑誌やメディアでも紹介され、客の入りも上々だった。
ある日、常連から「塩ラーメンも食べてみたい」とリクエストを受ける。塩ラーメンを作ったことがなかった平賀さんは、藤沢の「七重の味の店 めじろ」(現在は閉店)を訪ねる。塩ラーメンを食べ、店主の大西良明さんに自分の店でも作りたいと相談すると、なんと食材を分けてくれた。これで完成したのが「引き潮」。矢沢永吉の曲名を冠するメニューになった。ホタテのワンタンを乗せた塩ラーメンで、これが大変人気になった。
常連客の声で生まれたラーメンは他にもある。コリアンダーやクミンなどエスニックなスパイスを効かせた味噌ラーメン「流星パンチ」もリクエストから生まれ、業界最高権威とも言われる「TRYラーメン大賞」のみそ部門1位を獲得するほどの人気メニューに成長した。

そして、醤油ラーメンもパワーアップさせた。今や看板メニューとなっている「流星プレミアム」だ。醤油の味と香りをしっかり感じる醤油ラーメンを作りたいと平賀さんが訪ねたのが、目黒の「麺や 維新」。店主の長崎康太さんに作り方を教えてもらい、たまり醤油を効かせた一杯を完成させた。
常連客や他店のラーメン店主の声をもとに、次々に新しい一杯を生み出す平賀さん。その原動力はどこにあるのか。
「ラーメン作りは飽きないんですよね。飯を食べていても音楽を聴いていても、ラーメンのアイデアが湧いてくるんです」(平賀さん)

平賀さんにとってラーメンは「エンターテインメント」。お客さんを喜ばせるために、これからも新しいラーメンに挑戦していく。今年で独立20周年を迎えたが、「最低あと20年は続けたい」と意気込む。
そんな平賀さんの愛するラーメンは、レゲエに魅せられた店主がレゲエな空間の中で作るこだわりの一杯だった。