映画の中で新さんが演じた哲郎は、料理などするようなキャラクターではない。でも、その最初の一日で、人間対人間として付き合えたことが、演じる上では大いに役立ったと新さんは言う。
「撮影したのがちょうど1年前で、蒸し暑くてジメジメした、まとわりつくような空気の中で、スコールのような大雨がバーッと降ってきた。部屋の中でみんなで、『雨、すげー』なんてドキドキしながら過ごしていたら、しばらくして、雨が上がって、今度は抜けるような青い空が広がっていた。同じ空間で、同じ時間を過ごしていたら、子どもとか大人とか関係なく、2人とも、人間としてものすごく魅力的だなぁと思ったんです」
そこからは、覚えてきたセリフにだんだん血が通い始めた。
「哲郎は、決してドライな人間じゃなくて、子どもたちのことは誰よりも愛しているんです。だからこそ、純粋無垢で自由奔放なあみ子のことを、どう扱っていいかわからない。でもどうにかして寄り添っていたい……。そういう矛盾した思いを、どのぐらいの温度感でやっていくのか。あみ子と会うことで、そこから組み立て始めることができた気がします」
(菊地陽子、構成/長沢明)
※週刊朝日 2022年7月15日号より抜粋