芥川賞受賞作家のデビュー作の映画化「こちらあみ子」で、父親を演じた俳優・井浦新さん。ロケ地の広島で子役たちと過ごした時間が、役作りに役立ったという。
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世界には、子どもを主人公にした、優れた映画がいくつもある。それを観た人のほとんどが、ストーリーもさることながら、瞬時に子役の輝きに魅了されてしまうような。
新さんが、主人公・あみ子の父親を演じた「こちらあみ子」は、芥川賞作家・今村夏子さんのデビュー作の映画化。広島に暮らす小学5年生のあみ子の風変わりだが純粋な行動が、家族や同級生など周囲の人たちを否応なく変えていく――そんな物語を、初めて森井勇佑監督が読んだとき、「自分の中にあみ子が住み着いた」と感じた。
「父親役のオファーをいただいたのは、子役のオーディションが始まる前でした。台本を読んだ時点で、『この作品はすべてがあみ子役が誰になるかで決まる』と思っていたので、森井監督からも、逐一オーディションの状況については報告を受けていました。監督にとってはデビュー作だし、自身のすべてを懸けているような気迫を感じていて、僕がこの作品にどういう思いを持って臨むかよりも、監督の見つけた“あみ子”に出会ってみたいという気持ちが先立っていました。でないと、僕自身の“哲郎”(役名)のイメージも、何も湧いてこなかった」
子役が決まり、クランクインする少し前に、他のキャストより先に、呉に行くことになった。あみ子役の大沢一菜ちゃんと、お兄ちゃん役の奥村天晴くんと会うためだ。
「一菜に会ったときの最初の印象は、『本当の野生児が来たな』(笑)。会った初日に、監督から、スタッフの方たちが寝泊まりする一軒家で、『一菜と天晴と3人で過ごして』って言われて。『何食べよっか』と聞いたら、『ハンバーグ!』とか『素麺!』とか、好き勝手なことを言うんですよ(笑)。せっかくだからリクエストされた料理を全部作ってやろうと、材料を買いに行って、料理して、一緒に食べました」