
2月初旬の寒い朝、庭に猫がいた。ガラス戸をあけて声をかけると、ゆっくり移動した。
ノラ猫なら素早く逃げるのになと思いながら、猫好きな妻に知らせた。
後で妻が言うには、鳥のためにまいておいたパンくずをむさぼるようになめていたから、家に残っていたパンくずに薄めたスープをかけてやると、ガツガツ早食いしたとか。食べおえた頭をなでると喜んでいたという。
その猫は、体は薄汚れ、やせてノラ猫そのものの姿だ。その上、下腹部に卵大の腫瘍(後にヘルニアと判明)をぶら下げている。
想像するに、飼い主が転居のために置き去りにしたか、この腫瘍のために捨てたかしたのだろう。
サンルームの棚に段ボール箱で寝床を作り、夜だけ入れてやった。昼間はぬれ縁の端や草木の陰で休んでいる。サンルームには洗濯機があり、妻が洗濯している傍らにいることも多い。
ボロ(写真、雄)と呼ぶようになったが、近所の強い猫たちとケンカして負ける弱い猫だということもわかった。
4月下旬の明け方、またケンカして逃げだした。昼ごろ庭の片隅で震えていたが、妻と私の手を振り払い、どこかに去っていった。妻は、死に場所を求めて人目のないところに行ったのだと言う。
3日目、奇跡的にボロは戻ってきた。体が痙攣している。その日のうちに動物病院に連れていき、翌日ヘルニアの手術となった。コロナ騒動と重なり、外出しないよう去勢手術も同時に受けさせた。
今は当初とは見ちがえるように元気になり、家族の一員のような顔をして行動している。
こうして私齢80、妻70代前半、ボロ不明。3人の生活が始まった。
(桜井芳彦さん/千葉県/79歳/画家)
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