14曲目、「真夏の果実」のイントロが流れると、客席に取り付けられたリストバンド型ライトが一斉に輝き出した。幻想的な空間演出に、後日、桑田はラジオで「あれは見ないように歌った。見ると涙が出るから」と振り返っていた。
この日のライブでは、演奏するメンバーを後ろからとらえた映像も多用された。前出の森原が、その意図を明かす。
「あの画(え)こそが今回のライブのテーマだと思ったんです。誰もいない客席に向かって演奏し、語りかけ、冗談を言い、本気で歌い続けている。あの“背中越しの客席”を撮りたかった」
15曲目は疾走感あふれる「東京VICTORY」。ここでなんと聖火台が客席のド真ん中に登場。スタッフたちが桑田に合わせて拳を突き上げる。メンバーとスタッフの絆が力強いエールとなって画面越しに見つめるこちらの胸を打つ、格別の瞬間だった。
いよいよライブは佳境に突入。18曲目「マンピーのG★SPOT」では、人数もセクシー度も倍増したダンサーたちが桑田のほうへ。いつもならお約束のごとく密になるが、今夜ばかりは濃厚接触はお預けだ。話題のアマビエ様をあしらったヅラを被った桑田が、カメラに向かって「疫病退散!」と叫びまくる。
本編ラストは「勝手にシンドバッド」。「42年前のデビュー曲をお聴きくださーい!」という桑田の掛け声とともに、客席に降り立ったサンバダンサーや法被姿のスタッフがドンチャン騒ぎを繰り広げた。
1時間40分の本編が終わると、SNSでは「アンコール!」の大合唱。4分後にメンバーたちが再びステージへ上がると、一斉に「キターーーー!!」。
ラストの曲「みんなのうた」の前奏で、桑田はこんなメッセージをおくった。「人生は世の中を憂うことより 素晴らしい明日の日を夢見ることさ」
この日の舞台監督を務めたのは、サザンのライブを長年支えている南谷成功(65)。
「個人的にこのメッセージほど響いたものはなかったです。今回、新しいライブエンターテインメントのあり方をサザンのみなさんが示してくれた。ファンを大事にして、医療従事者をサポートして、僕たちスタッフのことも救ってくれて。こういう輪が広がると、エンタメ界も元気を取り戻せると思うんです」