■「いまこの時」を共有
目の前に観客がいない寂しさはどこ吹く風。桑田が無観客ライブを楽しんでいる様子は、随所に見られた。
たとえば1曲目の「YOU」。サビの「ユー!」に合わせ、桑田がカメラを力強く指さした。3曲目「希望の轍」では、「大変な毎日をご苦労様 今日は楽しく行きましょう」と歌詞を変えて歌った。観客と居場所は違えど、いまこの時、を共有しているメッセージだった。
時折語りかけるMCタイムも、まさに桑田節。
「医療従事者の方々に感謝の意を表して、ここ横浜アリーナでライブをやらせていただきます。みんながいるから大丈夫。姿は見えないけど、みなさんの魂がここにあります」
そう熱く語ったあとに「それでは最後の曲です」とボケることも忘れない。
ロックナンバー「Big Star Blues(ビッグスターの悲劇)」と「フリフリ’65」で温度が一気に上がる。映像はステージの俯瞰からメンバーのアップへ、さらには天井を這うように移動する「ウィングカム」でとらえた躍動感あふれるカットへと目まぐるしく切り替わった。
撮影監督の森原裕二(48)は「観ている人たちがメンバーを近くに感じる映像を届けたかった」と話し、こう続ける。
「今回のようにステージの目の前に大きなクレーンカメラを置くなんて、これまでのサザンのライブでは絶対にやらないこと。無観客だからこそ置けたポジションなんです。カメラがどんどんステージに近づいていって桑田さんと目が合うような、観ている人を画面の中に引き込む映像が撮れたと思います」
10曲目に披露された桑田&原由子のデュエットソング「シャ・ラ・ラ」では、二人の後方にあるビジョンに、たくさんのファンの姿が映し出された。
■背中越しの客席を映す
ライブ開始からあっという間に50分が経過。ここでメンバー紹介をしつつ、カメラを指さし「飲み過ぎだってば! ちゃんとしなさいよ」と桑田がひと言。自宅で酒などを飲みながらいつもとは違うライブの楽しみ方をしているファンへの“注意”だったが、11曲目「天井棧敷の怪人」で女性ダンサーが現れると、出だしから「お前らいいかい 今夜は呑んじゃえ!!」と、先のフリをしっかり落とした。