編集者として何人もの作家を世に送り出した著者は出版社を定年退職したのち、京都の大学に勤めた。その5年間の生活とともに語る、異色の京都案内エッセイ。
京都の味覚は「薄味淡泊」といわれるが、薄いのは色合いだけで味が濃かったりする。著者は、京都発祥の「天下一品」のようなこってりラーメンは、京都に学生が多いからではないかと推測する。地元の「大垣書店」は、店によっては広いスペースをカフェに割いており、その結果、出版不況のご時世に業績を伸ばしている。これは「京都の奇跡の一つ」と驚く。京都の銭湯の共通項は入り口の暖簾に「牛乳石鹸」の文字があり、関東では定番の富士山のペンキ絵は見かけないなど、観光ガイドブックに載っていない京都の細部が面白い。東京者の目から見た京都文化論にもなっている。(生田はじめ)
※週刊朝日 2020年7月17日号