オダギリ(谷川さん提供)
オダギリ(谷川さん提供)
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「お母さん、ドロボーに入られた」。10年ほど前、残業続きだった娘が、夜遅く電話をしてきた。

 娘のアパートに行くと、警察が来ていた。荒らされてはおらず、盗られた物もないとその日は終わった。

はどうしたの?」。飼い猫の様子を聞くと、「押し入れに入って、小さくなって震えている」。

 泥棒に対して猫は役に立たない。次の日、落ち着いて調べてみると、アクセサリーとブランド物のバッグがなくなっていた。

 気味悪がって娘はアパートを引き払い、猫を連れて帰ってきた。愛護団体の友人から譲り受けた子猫である。名前はオダギリ(写真、雌)。なかなか慣れなくて娘は苦労したようだ。近寄るとシャーッと手を上げて威嚇する。そのくせ、割り箸の先にカツオ節をはさんで差し出すと、シャーッと言いながも食らいつく。

 わが家にやって来てから1カ月間、一歩も娘の部屋から出ることがなかった。少し慣れてくると階段を駆け上がったり、ベランダに出て柵の上を綱渡りして近所の人を笑わせたりした。

 その後娘は結婚し、オダを連れていくと言ったが、日中は留守だし、マンションの4階暮らしは可哀想なので押しとどめた。

 猫嫌いだった私もすっかりオダが可愛くなった。トントン軽くたたいたり撫でたりするとゴロゴロとのどを鳴らす。次第に大きくなっていく音を、体に耳をつけて聞いていると、心がつながる気がする。

 近所にはノラ猫が多い。窓越しに外を眺め、塀の上を歩いていく猫にウーッと唸ったり愛想のいい声で話しかけたりしている。

 オダももう13歳。以前はなめらかな動きで膝に乗ってきていたが、今は椅子のフチに手を置いて、どっこいしょと乗ってくる。一緒に年をとったようだ。

(谷川隆子さん/大阪府/73歳/主婦)

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