焼鳥屋から漂う香ばしい煙に包まれた鬼子母神前停留所の旧景。生活感溢れる情景は遠い追憶となった。(撮影/諸河久:2003年1月11日)
焼鳥屋から漂う香ばしい煙に包まれた鬼子母神前停留所の旧景。生活感溢れる情景は遠い追憶となった。(撮影/諸河久:2003年1月11日)

 雑司ヶ谷方から鬼子母神前にかかる環状第5の1号線の工事は2011年に着工された。前述の地下トンネル道路は、東京メトロ副都心線と地表を走る荒川線との間に開削工法で建設されたため、地表部の荒川線の軌道敷きと街並みは大変貌を遂げた。

 現在地表道路の整備や軌道移設などの仮復旧工事が進捗している。近景写真は従来よりも西側に移設された鬼子母神前停留所から雑司ヶ谷方向を撮った。アップダウンの雑司ヶ谷坂は開削工法による仮線になり、坂下の踏切付近から軌道が西側に移設されている。もう一枚は鬼子母神前停留所から千登世橋方向を撮った。半世紀前に筆者が都電を撮った目白通りから続く小径は道路用地になり、影も形もなくなっていた。

 最後のカットが2003年の新春に写した移転前の鬼子母神前停留所の一コマ。踏切際で盛業していた焼鳥店「豊島屋」からは、香ばしい煙が周囲に漂っていた。この場所も道路用地の一部となり、生活感に溢れる鬼子母神前の光景は追憶の彼方に消え去った。

■撮影:1963年2月10日

◯諸河 久(もろかわ・ひさし)
1947年生まれ。東京都出身。写真家。日本大学経済学部、東京写真専門学院(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。鉄道雑誌のスタッフを経てフリーカメラマンに。著書に「都電の消えた街」(大正出版)、「モノクロームの私鉄原風景」(交通新聞社)など。2019年11月に「モノクロームの軽便鉄道」をイカロス出版から上梓した。

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