ロシアのウクライナ侵攻に世界は揺れ続けている。この先どこへ向かうのか。『歴史の予兆を読む』(朝日新書)の共著者・保阪正康さんに聞いた。AERA 2022年7月11日号の記事を紹介する。
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ウクライナに侵攻したロシア軍は今、親ロシア派支配地域がある東部ルハンスク、ドネツク両州の完全支配を目指し、要衝セベロドネツクを制圧するなど攻勢をかけている。
「侵攻には驚きました。1939年のナチスドイツによるポーランド侵攻のような、まさに20世紀型の帝国主義的侵略戦争が、これほど露骨な形で行われるとは思っていなかった。めくれていた人類史のカレンダーが元に戻ったような、非常に奇妙な感じも抱きました」
侵攻はなぜ起きたか。保阪さんはロシアのプーチン大統領の「意識」によるところが大きいと見る。
「かつてはロシア帝国があり、その後のソ連も社会主義の総本山として支配体制を作り、その空間自体が一つの帝国でした。そういう『大ソ連帝国』を再び作りたい──。そんな思いが、侵略を強行したプーチンの『力の論理』の根源にあると思います。プーチンの中ではウクライナは『大ソ連帝国』の一つであり、侵攻の何が悪い、という開き直りもあったでしょう」
KGB出身の大統領
プーチンは、旧ソ連の独裁者スターリンとの類似性も指摘される。保阪さんは「似ている部分はある」としつつ、異なる点に着目する。西側諸国からの視線だ。
「スターリンは、社会主義を世界に拡大していくことが一つの目標でした。当時、西側の特に知識人たちは『社会主義の先駆性』をまだ信じていましたから、その目標を比較的好意的に見ていたと思います。スターリンによる粛清も、社会主義の持つイデオロギーによってある意味、相殺されていた」
「しかし、今や社会主義幻想はすっかり崩れてしまった。プーチンがスターリンと似たことをやっても、スターリンなら『社会主義の先駆性のためだろう』と思ってもらえたけれども、プーチンの政治は『帝国主義の、世界を支配下に置くための悪質なシステムに過ぎない』という捉え方をされ、批判を浴びる。そこは大きく違います」