芭蕉の俳句を読み解きながら、「美しい日本語の世界に遊ぶ楽しみ」を指南してくれるエッセイ。精神科医にして作家、クリスチャンでもある著者の芭蕉論とは一見意外だが、随所からこの不世出の俳人への愛着が伝わる。

 芭蕉が句を推敲していった過程を追うくだりは、特に興味深い。漢字かひらがなか、あるいはカタカナか。使う文字ひとつさえおざなりにせず、研ぎ澄ました五感が捉える森羅万象を芭蕉がいかに美しく簡潔に描き出していたかが手に取るようにわかる。栄華を求めず、孤独な死へ向かっていった芭蕉の人生行路が、そこに二重写しになる。

『おくのほそ道』を始めとする俳文紀行も丁寧にダイジェストされていて、俳句のみならず散文の素晴らしさも堪能できる。鑑賞の手引きとなる入門書としても秀逸。(平山瑞穂)

週刊朝日  2020年4月17日号