その先に生まれつつあるのが「気づき」の街歩きだ。たとえば「マンホール」「階段」など、どんな街にでもあるものに改めて気づき、愛でる。どこにでもあるからこそ見過ごしていたもの。しかし気づけばたちまち新しい風景が見えてくるもの。そんな「自分なりの対象に、自分だけの価値や魅力を見いだす」街歩きを楽しむ人が、増えているのではないか。その一つの切り口が、暗渠なのだ。
では、暗渠の「気づき」を味わうためのいくつかの定石を紹介しながら、あらためて暗渠目線で渋谷を味わってみよう。
渋谷は、暗渠好きにとっては街全体が「テーマパーク」だ。冒頭の渋谷ストリームに立てば、渋谷駅の下(南)からいきなり渋谷川が「始まって」いるのがわかる。さて、本当にここが始まりなのか? そんなことはない。こんな川には必ず上流があるはずだ。「突然現れる(または消える)川」があれば、その前後を疑うのが暗渠探しの定石中の定石だ。
そして「谷底」。水は低きに流れる。すなわち谷底には川が流れていた可能性が高い。そう、水の気持ちになって低いところを探るのも定石の一つ。渋谷駅は、北から西からたくさんの谷筋が集まってくる。このたくさんの谷こそが渋谷川の上流であり、テーマパークたる所以だ。これらには、谷ごとに違う表情を見せる多彩な暗渠がある。
「橋」がつく地名にも注目しよう。たとえば都内の京橋、新橋、数寄屋橋。これらがかかっていた川はすでに消え、橋の名だけが残っている。そんな暗渠にかかる橋の名を探すのも定石といえる。渋谷の北、国立競技場横に観音橋という交差点があるが、この名こそ、渋谷川の上流暗渠のありかを示す手がかりだ。
渋谷川流域に限らず、渋谷区全体に目を向けてみても、広尾橋、三角橋、清水橋、常盤橋、五條橋など、「暗渠にかかる橋の名」の交差点が見つかるだろう。これらを地図上で注意深く見てみると、清水橋以外はすべて渋谷区と他区との区境上に位置しているのがわかる。
川が行政区分となっている例は今でもあちこちで見られる。だが、それが暗渠であるところも多いのでは?と、東京23区の区境を調べてみると、23区の各区境の延べ長さのうち、47.6%が川または暗渠であることがわかった(筆者調べ)。そう、23区の区境は、その半分が川または暗渠でできているのである。