
二つめは「経路」である。
川や水路はすべて海まで繋がっているはずだが、その繋がりを隠し、分断しているのが暗渠だ。すなわち暗渠は、私たちの住む街に、壮大なパズルを仕掛けているのである。これを解き進めるにつれ、街に埋め込まれた新たなネットワークに気づくとともに、新しい世界の捉え方を手に入れることになる。
最後は「景観」だ。
暗渠は実にいろいろな姿をしている。流れに蓋をかけただけのプリミティブな暗渠であれば、その蓋の下にかつての水面を想うことも容易だ。またきれいに舗装され、ほとんど普通の道にしか見えない暗渠であれば、力一杯、妄想力全開で川の流れを感じてみるのも楽しいものだ。
こと渋谷界隈でいえば、通りを挟むようにおしゃれなショップが軒を連ねる東京・原宿「キャットストリート」も渋谷川の暗渠だ。また海外からの旅行者も多い人気のカフェや飲食店が集まる「奥渋」と呼ばれる渋谷駅の北西一帯も、暗渠が多い。

つまり、ひと口に暗渠といっても、それぞれの景観に味わいがある。甲乙つけるのも野暮というものだが、特に私が惹かれるのは、雑草が茂り、粗大ゴミが打ち棄てられたような暗渠だ。滅多に人も通らず、世界から疎外されたような異空間が、身近な街にひっそりと息づく景観に、心ときめくのだ。
そんな「暗渠趣味」だが、街歩きトレンドの変化とともに、だんだんと多くの人に受け入れられるようになってきた。
そもそも、単なる散歩が「街歩き」という趣味の一ジャンルとして定着したのは、「安・近・短」というキーワードが急浮上したバブル崩壊後である。1992年に「ぶらり途中下車の旅」(日本テレビ)がスタートし、96年に雑誌「散歩の達人」(交通新聞社)が創刊。身近な街の「名所」を訪ね、「名物」を味わう、レジャーとしての街歩きが興ったのが90年代だった。
そんな「遊び」の街歩きに革命を起こしたのが、09年スタートの人気番組「ブラタモリ」(NHK)だ。観光やグルメ情報はスルーし、地球科学者や郷土史家らとともに土地の成り立ちを解いていく、「学び」の街歩きをこの番組が確立したのである。