東京・渋谷を流れる渋谷川。渋谷ストリームの脇を流れ、川が見えなくなるポイントでもある(撮影/写真部・掛祥葉子)
東京・渋谷を流れる渋谷川。渋谷ストリームの脇を流れ、川が見えなくなるポイントでもある(撮影/写真部・掛祥葉子)
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 見えないから、知りたくなる。歴史があるから、歩きたくなる。街の成長や利便性を優先して「蓋」をされた暗渠には深い味わいがある。AERA 2020年3月9日号では、『暗渠パラダイス!』の著者で暗渠ハンターの高山英男が渋谷をナビゲート。その意外な魅力に迫った。

【渋谷は暗渠だらけ!? 水路がわかる暗渠マップや厳選スポットはこちら】

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 カフェやショップ、オフィスなどが入る東京・渋谷の複合施設ビル「渋谷ストリーム」から望むのは、恵比寿に南下し天現寺へと流れる渋谷川。これを囲むように、2019年は「渋谷フクラス」や「渋谷スクランブルスクエア東棟」が開業し、さらに宮下公園の再整備事業「ミヤシタパーク」といった商業施設の開業準備も着々と進んでいる。日本で、土木的にも経済的にも、最も注目を集めている街の一つが、ここ渋谷だ。

 40年ほど前、井の頭線の新代田駅付近に住んでいた頃、家賃を払いに行くたびに、大正生まれの大家さんが繰り返し話してくれた。

「渋谷駅までよく歩いて行ったもんだが、あそこは谷底だろ。雨が降ると水があちこちから集まって、すぐにぬかるみの泥だらけだ。ひどい街だったよ」

渋谷川を北側から恵比寿方面に向かって見ると、川が切れたかのようになっているのがわかる(撮影/写真部・掛祥葉子)
渋谷川を北側から恵比寿方面に向かって見ると、川が切れたかのようになっているのがわかる(撮影/写真部・掛祥葉子)

 渋谷の街が大好きだった当時の私は聞き流していたが、暗渠(あんきょ)の道に足を踏み入れてからは、この言葉を金言のように思い出す。そう、渋谷はその名の通り谷の街、あちこちの丘から水が集まる所なのである。すっかり水面が消え、ビルだらけとなった今でも、それは決して変わらない。だからこそ、私のような暗渠マニアにとってはテーマパークのような街なのである。

 暗渠とは、「水の流れを地下に移した川や水路」のことだが、ここでは広く「単なる川跡・水路跡」まで含めて暗渠と呼ぼう。流れが消えても、そこにはいまだ川の魂が残っていると考えたいからだ。

 その暗渠、いったい何が面白いのかと聞かれれば、私はいつも「経過」「経路」「景観」の三つであるとお答えしている。

 まず、「経過」とは、土地の履歴である。

 川が暗渠にされる理由のほとんどは、便利さや快適さを求めるヒト都合だが、丁寧にひもとけば、個別の都市が抱えてきた課題が見えてくる。それを乗り越えてきたプロセスは、教科書に載っている均一化された歴史では味わえない、その場所ならではの履歴なのだ。

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「ブラタモリ」が街歩きに革命