世界中のスラム街や犯罪多発地帯を渡り歩くジャーナリスト・丸山ゴンザレスが、取材先でメモした記録から気になったトピックを写真を交えて紹介する。

【写真】完成したゴンザレスの偽IDがこちら

ニセIDをつくるために写真撮影する丸山ゴンザレス
ニセIDをつくるために写真撮影する丸山ゴンザレス
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■バックパッカーの聖地・カオサン通りの“裏名物”

 タイ・バンコクにあるカオサン通りは、“バックパッカーの聖地”と呼ばれ、世界中から旅人たちが集まってくる場所である。私も旅を始めた20年ほど前から、この場所を頻繁に訪ねている。

 ほとんどの売り物は特に問題ないのだが、何度も訪ねると怪しい物も売られていることに気づく。それが、学生証を作ってくれる屋台だった。

数々の偽ID。撮影していたら、店員に「撮るな」と手を出された
数々の偽ID。撮影していたら、店員に「撮るな」と手を出された

 学生証といっても偽物である。そんなものを何に使うのかと思うだろうが、一部の旅人にとっては必需品なのだ。欧州や中南米の博物館、美術館で学生料金が設定されている施設では、この偽造した学生証で学生割引が受けられるのだ。

「公文書偽造じゃん!」

 だが、当の旅人たちは、そんなことおかまいなし。旅の資金を切り詰めるほうが大事なのだ。むしろ、この偽学生証を目当てに、カオサンに立ち寄る旅行者も珍しくなかった。あくまで20年も前のことではあるが、実に多くの大学の学生証を取り扱っていた(偽造していた)ように思う。

 当時、現役大学生だった私には不要だった。実際に偽学生証を作っていた旅の先輩(30代)に「バレないんですか?」と質問した。

「欧米ではおっさんになってから大学生になることもあるから、別に不審がられないんだよ」(旅の先輩)

 かなり無理がある。実際、近年はバンコク製の偽IDが、各国の観光地で認知されており、通用しにくくなっているようだ。「お前、タイで作っただろ」と南米の遺跡で、受付職員に言われた知り合いもいるほどである。

■保険証に免許証も… 偽学生証屋の品ぞろえが増えた?

 カオサン通りも、時代とともに変わりつつある。偽学生証屋を久しぶりに訪ねたのは、2015年のことだ。カオサン通りから旅行者の姿が少なくなって久しいころである。

 もともとカオサンの需要は、安宿や旅情報を求めた旅行者である。ところが最近は、ブッキングサイトを使えば安宿は容易に探せる。航空券も同様だ。その結果、旅人の“カオサン離れ”が起きてしまった(あくまで少なくなってきたというだけで、いまでも日本人旅行者はいる)というわけである。

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ゴンザレス 偽IDを制作!?