歳時記の始まりは「立春」から! 今日から新しい春夏秋冬がめぐります。春の気が立つ。ひとたび春の気配を感じてしまうとワクワクが止まりません。外はまだ寒く、これから雪がたくさん降ることもあるでしょう。でも、暦にもう春ですよ、と云われてしまえば気持ちはもう前へ前へ。

いつしか氷も薄くなり、うぐいすの笹鳴きが聞こえてきてハッとするかもしれません。氷の割れ目から魚が跳ねる姿も見えてくる日も近いですよ。まだ寒さが厳しい2月ですが、心と五感で春をしっかりつかまえにいきましょう。さあ、出発です!

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見えますか?寒さの中でほころぶ梅の花。聞こえますか? 遠くの春を呼ぶ声

「東風(こち)吹かば 匂ひおこせよ梅の花 主(あるじ)なしとて春な忘れそ」

春、というと思い出される有名な一首です。菅原道真が太宰府に流されるときに、去りゆく家の庭の梅の木の前で詠んだとされています。東から吹く風が春を呼ぶ、というのは五行説で東の方角を春にあてていたからといわれ、東風が春の風として定着したのは中世からということです。枯れ枝のように見えていた梅の木にぽつりと見える梅の芽、やがて紅や白の莟となってふくらみ始めます。まだ固い小さな莟はささやかな春を告げる東風が吹いた証しです。ふっくりとした莟のなかに春のあたたかさが潜んでいます。

春を告げる風は春を告げる鳥も呼んできます。平安時代の初めにできた『古今和歌集』にある歌を見てみましょう。

「鶯の谷より出づる声なくば春くることを誰か知らまし」 大江千里

鶯が鳴くのを心待ちにしているようすがわかりますね。

鶯の鳴き声、初めは「ちゃちゃ、ちゃちゃ」そして「ほー」や「けきょ」へ。その先がなかなか上手にならない。鶯が悪戦苦闘している鳴き声に「それ、がんばれ!」と応援していると、ある日突然「ホー、ホケキョ」と完璧な鳴き声が飛び出します。この声が初めて鳴ったときは本当に感動して、耳に残る余韻に浸りながら次のひと声を待っていると、身体は完全に止まってしまいます…。春の声に耳をかたむけましょう。

新しい季節とともにやって来る自然の美しさを待つ心、それは希望でもあります。日本人が春の到来を楽しみにする気持ちはこのあたりにあるような気がしませんか。

鶯と山桜
鶯と山桜

装いましょう、春の色! 帽子に手袋、色鮮やかに防寒!近づいているのは春なんです

通勤電車の中、モコモコのコート姿でじっと駅に到着するのを待っている、そんな光景を見ていたら、なんだか暗い心持ちになりました。なぜだろう? と考えて気がついたのが、みなさんが着ているのが黒やグレーという暗い色ばかり! そうか、色で気持ちも沈んでしまったのだ、と教えてくれたのが少しお年を召した女性の春色のマフラーです。くすんだ色合いのなかにパッと明るい光が射したように鮮やかに目に飛びこんできました。

そうなんです! ちょっとした小物に春の明るい色を取り入れてみませんか? マフラーや手袋、肩から掛けるポシェットもいいかもしれません。襟元からのぞくタートルのセーターもいかがでしょうか? ほんの少しの春の色。これなら簡単にできそうです。春を先取りして明るい気分になりますね。工夫はささやかですが春を感じる心は大きくなりますよ。

心が浮き立つ? 如月に立つのは恋の風! バレンタインデーがやってきます!

日本でもすっかり定着したバレンタインデーは春の季語にもなっています。

「大いなる義理とて愛のチョコレート」 堀口星眠

「バレンタインデー傷つけて鍋磨きあぐ」 寺井谷子

「バレンタインデー愛のかけらを貰ひけり」 安居正浩

チャンス!と喜んで? ドキドキが止まらない! けれど一生懸命準備して迎えるそれぞれのバレンタインデー、嬉しさに楽しさ、でもちょっと切ない思いもあるようですね。

「恋風」はそんな気持ちを表す言葉。思うようにならない恋の切なさを、冷たく身にしみる風にたとえています。季語ではありませんが、昔から使われている言葉なんです。春を待つ風の冷たさも身にしみますが、恋の風ならどんどん吹いてほしいですね。

春のきざしを感じたら探しましょう、見つけて喜びましょう。もう少し続く寒さを一緒に乗り越えていきませんか。立春ですから。