大正11年生まれの寂聴さんは、現在97歳。小説家として62年、僧侶として46年を生きてきた。長い人生で学んだことは、人が生きるとは誰かを愛すること。そして、愛することとは許すことだと説く。

 25歳で小説家を志し、3歳の娘を置いて家を出た経験も、後悔はあるが、それがなければ今の人生はなかったという。やらずに後悔するより、やって失敗するほうが生きがいもあると、私たちを励ましてくれる。一つひとつの言葉が釈迦の説法に基づくが、「寂聴さん」というフィルターを通すと心により深く刺さってくる。生きる幸せ、死ぬ喜びといった大切な教えが並ぶ。

 今でも徹夜して文章を書くのが最高の快楽という。それが97歳の作家と思うと驚異的である。人生100年時代を生きる私たちに、大いなる“遺言”を残してくれている。(金田千里)

週刊朝日  2020年2月7日号