2年くらい前から雄のノラ猫(写真)が来るようになった。その猫と友達になった母は、名前を付けた。「クロ次」
鼻水べじょべじょ。口の周りをベタベタにして牛乳を飲む。ノラだからノミがいる。そのためノミ取り薬を買ったこともある。
汚い黒猫。爪をしまえないノラ猫。
いつの間にか家に入って、母と昼寝をする身分になっていた。そんなときに家の中で私に出会うと、一応そばまで挨拶に来る奴だった。
いつもは外で暮らしているクロ次。しかし、家の中で粗相をしたり、悪さをしたりすることは決してなかった。
朝窓を開けると、窓の下の草むらで「ヴニャ」と、少しかすれた声で必ず挨拶をする。餌は外でやるので、そのときだけ私についてきて、閉まるドアにはさまれそうになるクロ次。母は一緒に昼寝をし、クロ次をスケッチしていた。
お盆の15日、母がいつものように窓を開けて草むらのクロ次に声をかけていた。「あれ? 寝てるわ」。母が言った。
クロ次は、いつもの草むらで、いつもの姿勢で、動かなくなっていた。
何をしていてもクロ次の話になる。昨日まで、ここにゴロンとしていたのに。毛が付くからコロコロも買ったのに。いつの間にか、クロ次は大切な存在になっていたことを思い知らされた。
母の心に、大きな穴。私の心に、大きな穴。
びっくりしすぎて、悲しいのか寂しいのか訳がわからなくなりながら、クロ次が眠りについた場所に母と二人で墓をつくった。墓石がわりのブロックに母が、昨日までスケッチしていたクロ次の顔をアクリル絵の具で描いた。
クロ次、ここに眠る。
クロ次、ありがとう。
(渡辺聡子さん 栃木県/43歳/公務員)
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