■関東大震災復興用砂利輸送の生き残り
最後のカットは乙1001が青山書庫で資材の積み下ろしをするシーンだ。車庫内では中央部の荷台から、画面左側に見えるジャッキなどを使って重量資材を積み下ろすため、庫内には架線設備が無かった。貨物電車の移動には、反対側に装備しているトロリーポールが用いられ、庫外の架線から集電していた。
乙1000型は関東大震災後の帝都復興事業用として、1926年に汽車製造で45両が製造されている。台車は大正期の旧型市電から捻出されたブリル76Eを装備していた。
多摩川の砂利を市内へ運搬するのが目的で、渋谷駅東口に敷設された連絡線を使って市内から玉川電気鉄道(玉電)玉川線に乗り入れた。玉川線の先、砧線の旧大蔵駅に設置されたホッパー付きの専用側線から多摩川の砂利を積み込んだ。玉川線終電後の深夜、何両もの乙1000型が雁行するピストン輸送を実施して、川砂利を運搬したと伝えられている。
復興輸送終了後、役目を終えた乙1000は三両を残して廃車された。戦後に乙1001~乙1003に改番され、1969年から1971年にかけて廃車された。
ほとんど都民の目に触れることが無かった無蓋貨物電車「乙」の話を綴った。戦中戦後に、築地中央市場からの生活物資輸送を担った有蓋貨物電車は「甲」と表していた。
乙の存在をサーカスのピエロのように「おつ」なものと感じていたのは、筆者の思い入れなのか。
■撮影:1963年4月3日
◯諸河 久(もろかわ・ひさし)
1947年生まれ。東京都出身。写真家。日本大学経済学部、東京写真専門学院(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。鉄道雑誌のスタッフを経て「フリーカメラマンに。著書に「都電の消えた街」(大正出版)、「モノクロームの私鉄原風景」(交通新聞社)など。2019年11月に「モノクロームの軽便鉄道」をイカロス出版から上梓した。
レア度はドクターイエロー級? 57年前に都心を走った路面電車「乙」の正体
路面電車がみつめた50年前のTOKYO
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2020/01/11/ 07:00
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