雑誌「ちくま」に連載した中から選んだエッセイ集。
自分が生まれた産院について連載で書いたところ、産院名を間違い、母親から「せっかく縁起のいい名前のところを選んで産んだのに」と叱られ謝罪した。この話は単行本に収録しないと約束したのに、再録してしまったと「あとがき」に記している。うっかりミスだと断っているが、「面白ければ良し」の魂胆ではないかと勘繰ってしまうのは、軽妙で独特な筆致ゆえだ。
どこまでが実話でどこからが妄想なのか判然としない。「河童」という一篇では、レストランでソムリエからワインの説明を聞くうち「これ、全部作り話なんじゃないか」と思ったとたん、胸のソムリエ・バッジは河童の顔にしか見えなくなり……。身辺雑記を入り口に、いつしかヘンな世界に連れ出される。(朝山実)
※週刊朝日 2019年12月20日号