世界中のスラム街や犯罪多発地帯を渡り歩くジャーナリスト・丸山ゴンザレスが、取材先でメモした記録から気になったトピックを写真を交えて紹介する。
■沢尻容疑者からみえるドラッグ文化の変化
世界中の裏社会を取材している私だが、日本の報道も見るし、芸能関連のニュースだってチェックしている。ここ最近でもっともホットなニュースは沢尻エリカ容疑者(33)逮捕の報道だった。
彼女は合成麻薬MDMAを所持していたとされるが、所持していた麻薬の形状がカプセルで、そのなかに粉末状の薬が入っていたようだ。多少の違和感はあった。というのも、MDMAといえば錠剤であることが私の世代では常識だからだ。
MDMAの化学構造は覚せい剤に似ている。使用するとハッピーな気分になれるので、クラブやパーティでよく使われる。親近感を増す効果もあるらしく、セックスで用いられることも多い。見た目が錠剤だと覚せい剤とは違って見えるので、安易に手を出す人が多いのだ。
裏社会の取材ではよく見るドラッグだ。逮捕の報道を見たところで、「灰皿の裏を使って砕いたタマを、わざわざカプセルに入れて販売しているのかな?」ぐらいにしか思わなかった。錠剤を細かく砕いて鼻から吸引するというのは、薬物使用者のあいだでよくある手法なのだ。
日本の裏社会に精通している友人と飲むことがあった。そこで沢尻容疑者の話になった。
「あの子、タマ食ってたんだよね~」
なにげなく言ったことに友人が反応した。
「それは古い」
「どういうこと?」
聞き返すと、予想外の返事がきた。
「いまどきタマなんて言わないし、そもそも最近売られてるのは錠剤じゃないから」
彼の説明によると、闇市場に出回っているMDMAは1回分を紙などで小分けにした状態で、そのまま飲み込んでしまうという。
「それ以外だと、彼女(沢尻)みたいにカプセルに入れてるんだよ」
これは衝撃だった。ひとつのドラッグ文化の終焉のように思えたからだ。かつてMDMAに刻まれた独特なマークは、それ自体がブランドとなった。そのブランド意識がずっと続いていると思い込んでいた私は、国内のドラッグのトレンドを把握できていなかったのだろう。情勢を追い続けていないとわからなくなるのは、裏も表も同じなのだと思い知った。
もちろん、錠剤がまったく流通していないということはない。今も海外ではMDMAが錠剤のまま流通していることは、取材で知っている。となると、日本の闇市場に変化が起きているということなのだろう。そのあたりは今後、深堀りしていきたいテーマの一つである。(文/丸山ゴンザレス)