数年前です。母にたくさんの問題が降りかかりました。親の老後問題と夫の介護……この頃の母は異様なほど感情の起伏が激しく、口を開けば文句、愚痴ばかり。相当悩み、追い詰められていたのでしょう。とはいえ、それを聞かされる私も正直、辟易としていました。
そんなある朝。突然電話がかかってきて、自分がどんなに不幸であるか、誰もわかってくれないということをヒステリックに訴えてきたのです。その声は涙声でした。
「これはまずいな」。素人ながらに思いました。
もしかしたら鬱なのかもしれない。でも、この程度で心療内科に連れて行くべきなのか? よくわからないだけに悩みました。そんなとき、ふと自分がやっていた「いいことだらけノート」を思い出したのです。
今の母はとにかく目の前のマイナスの出来事にしか目が向いていない。でもマイナスばかりに着目しだすと、本来あるべき解決策も見えなくなるし、周りも関わりたくなくて手を差し伸べなくなります。これは危険です。そこで母に「今のお母さん、おかしいよ。このままだとまずいから、毎日、楽しかったな、よかったなと思うことだけノートに書いてみてよ。気持ちが軽くなるよ」と勧めてみました。
最初は「いいことなんてひとっっっつもない! そんなノート、私には書けないと思う」と言っていたのですが、何とか説得。自分でノートを買ってきて、書くようになりました。
1~2週間が経ったころでしょうか。母の表情が明るくなり始め「ちょっとノートを書くのが楽しくなってきた」と言い始めたのです。そして「こんな近くに楽しいって思うことがあったのねってノートを書くようになってから気がついたわ」と。
もちろん母のマイナス思考は筋金入りです。
今でも何かの拍子にぐっとマイナスのベクトルに引っ張られるのですが、あの数年前のような落ち込みや気持ちのバランスの崩れは起こさなくなりました。今では自分でも“究極のマイナス思考”であることをわかっているので、「あ、マイナス思考になっているな」というとき、ノートを見返したり、新たに楽しいことを書き足したりしているようです。