国内外の人々を惹きつけてやまない京都。その四季折々の魅力を、京都在住の人気イラストレーター・ナカムラユキさんに、古都のエスプリをまとったプティ・タ・プティのテキスタイルを織り交ぜながら1年を通してナビゲートいただきます。愛らしくも奥深い京こものやおやつをおともに、その時期ならではの美景を愛でる。そんなとっておきの京都暮らし気分をお楽しみください。
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■初秋の京都へ 記憶に残るスイーツを求めて
樹々の葉が日ごとに緑から黄色へと移りゆき、金木犀の甘い香りがふわりと風に乗って届いてくる季節。実りの秋を迎えた京都では、五穀豊穣を願う秋祭があちこちの寺社で行われ、活気づいています。朝夕のひんやりとした空気と日中の穏やかな気温が、甘いものや温かい飲み物を誘い、自然に食べることへの喜びに満ち溢れた気分になっていくようです。寒さと暑さが苦手な私は、この心地よい貴重な季節を存分に楽しむようにしています。普段の生活圏から離れ、少し遠くの気になるカフェやスイーツのお店へ、バスや電車を乗り継いで、ウキウキしながら向かうのです。今回は、一度食べたら忘れられなくなり、スイーツ好きの男性の心も虜にしてしまう龍安寺近くのカフェ「Kew(キュー)」をご案内します。そして、自宅でコーヒータイムを楽しむ道具と京みやげにぴったりな秋色の雑貨も合わせてご紹介します。
■幸福感に包まれ、記憶に残るデザート
名刹・龍安寺へと続く、静かで懐かしい商店街の一角に、大木健太さん、真奈美さん夫妻が営むカウンター7席だけの白く小さな佇まいのカフェ「Kew(キュー)」があります。元はカメラマンとしてロンドンで活動していた健太さんは、30歳の時に、モダンブリティッシュ料理で知られる有名レストラン「セント・ジョン」に魅了されます。中でもチーズケーキの美味しさに衝撃を受け、“いつかこの味を作れるようになりたい。ここで働きたい!”という一心から、ペストリーで3年間修業を積みました。帰国後、出張イベントなどを行いながら丹念に味の改良を重ね、2019年3月にお店をオープンしたのです。
口の中でとろりと溶けていく柔らかなチーズケーキは、一度食べたら忘れられなくなるほど。たっぷりのカスタードクリームが詰められているドーナツは、生地の味わいとほどよい甘さが、口の中いっぱいに広がり、子供のように無心に頬張ってしまいます。ボリュームたっぷりなのに、後味はとても軽やか。いつまでも幸福感に包まれ、また食べたいという衝動に駆られてしまう魅惑のデザートなのです。