宗教学者の山折哲雄と作家の柳美里による『沈黙の作法』は、生と死、問い、独り、沈黙という問題をめぐる対談集。2013年の晩秋から今年の冬まで6回、両者は京都で顔をあわせた。
東日本大震災後に被災地に通い、後に移り住む福島県南相馬市のラジオ局で「ふたりとひとり」という番組をはじめた柳の体験を皮切りに、沈黙の意義が語られていく。家族や家などを喪失した被災者「ふたり」の沈黙を前に、「ひとり」の柳は、<まず共苦による沈黙が必要なのではないか>と感じ、ひたすら聴くことに専念したという。死者の沈黙に匹敵する沈黙を持ち得るかと自問しながら。
対談を重ねる中、両者の間にも沈黙が生じる。山折はこう口を開く。<沈黙ですね。出て来る言葉を待ちましょう。出て来た言葉から行きましょう>と。その上で、人類に言葉が生まれてきた根元的な経緯を語り、知識の言葉に頼りきってすぐに沈黙を埋めようとする現代人を批判する。
<沈黙というのは、言葉と言葉の断絶や溝ではなくて、言葉と言葉の梯子みたいなものですね>
柳が沈黙の役割をクリアにした直後、山折は、<沈黙は、最高で最終的な宗教言語なんです>と断言。そして、宗教の役割を説く。
両者の体験に裏打ちされた沈黙に対する探究は、答えのない問いと向きあいながら生きる意義へと展開していく。表面上の人間関係や答えを性急に欲するこの時代に沈黙の作法を身につけることは、自分にとって真に大切なものと向きあえる力となるだろう。
大事なものは、そうそう、言葉にならないものなのだ。
※週刊朝日 2019年9月20日号