この洞察を数学的法則に置き換え、コンピューターの中で表現したのが「ライフゲーム」です。ライフゲームの中では、コンピューターの画面が格子状に区切られ、それぞれのセルが白か黒に塗られています。これらのセルは生物をイメージしたもので、黒は「生」、白は「死」に対応しています。黒のセルは、周囲が人口過密か過疎の場合は死んでしまい(白になる)、適度に仲間がいる場合は生き永らえたり子供を産んだりします。
不思議なことに、ある特定の配置で黒を並べた状態からライフゲームをスタートすると、周囲の状況に応じてセルの生死(白黒)が目まぐるしく切り替わり、やがて「フラクタル図形」という複雑で美しい模様が描かれるのです。
また、こんな不思議もあります。次の四つの物・ことには、ある共通点があります。
「花びら」「階段」「らせん」「ウサギの繁殖」
一見、無関係な物・ことに見えますが、これらは全て、ある有名な数列に従っています。大昔のアラビア人が考案した数列が、階段の上り方から花びらの枚数まで、日常のあらゆる場面で登場してくるのです。
それから、かずはかずでも「とてつもなく大きなかず」について考えたことはありますか。他ならぬあなた自身が、想像できないほど大きなかずが生んだ奇跡の申し子です。子供の遺伝子は、父親と母親から「半分ずつ」受け継がれますが、一卵性双生児でない場合、兄弟姉妹の顔や性格はバラバラです。というのも、生物が持つ巧妙な仕組みによって、遺伝子を「半分ずつ」交ぜる組み合わせが少なく見積もっても何十兆通りもあるからです。私達は、その膨大な可能性からたった一つだけ実現した奇跡の存在なのです。
ここまで書いてきたことは、日常のなかの数学のほんの一例にすぎません。現在2歳になる息子が小・中学生になったころ読んでくれたらいいなという思いで分かりやすさを最優先し、子供から大人まで楽しめる本を目指しました。
学校や塾でムリヤリ公式を覚えさせられて、「数学なんて大嫌いだ!」と思った方も多いでしょう。でも、たとえ嫌いになろうと、私達が数学に支えられて生きていることに変わりはありません。何気ない日常は、うつくしい数学の宝庫なのです。本書を通じて、学校の教科書に書かれていない数学の魅力を伝えることができたとすれば、それが何よりの喜びです。数学のうつくしさ、すばらしさを発見してくださる方が少しでも増えていくことを、心から願っています。