紀元前6世紀頃、ピタゴラスは古代オリエント世界のあちこちを旅して、各地で独自に発展していた数学の知識を学んで回りました。そして、この世界は数学の法則で動いているのだという悟りに達します。彼は、その悟りを教義として人々に伝えるため、宗教団体「ピタゴラス教団」を設立しました。
ピタゴラス教団の教えによれば、宇宙に存在するあらゆるものが数学の法則に従って動いています。それを端的に表したのが、「万物は数である」という有名な言葉です。この教えが現代科学に引き継がれていることは、言うまでもありません。科学とはまさに、身の回りの出来事を数式で説明する学問だからです。
科学全盛の時代に生きる私達にとって、こういった考え方は当たり前に映るかもしれません。けれども、いろいろな現象が数式で説明できること自体は、少しも当たり前ではないのです。20世紀最大の物理学者と言われるアインシュタインは、「この世界で最も不思議なことは、この世界が理解可能であることだ」という言葉を残しています。物理学者にとって、“理解可能”とは“計算可能”と同義です。天才アインシュタインにとって最大の謎は、この世界が数で表せることそのものだったのです。
私達の日常は、数学の神秘に彩られています。
たとえば、さまざまなものの「かたち」。雪の結晶、シマウマのしましま、巻貝のぐるぐる……。何気ない日常の「かたち」には、数学の法則が隠れています。ハチが六角形の巣を作るのは、オシャレだからではありません。あのかたちには、人間顔負けの数学的かつ経済学的な理由が隠れているのです。かたちの法則を理解すれば、ドラえもんの四次元ポケットの中だって“見る”ことができてしまいます。
さらに「うごき」はどうでしょうか。
多くの生物は、仲間が多すぎると人口過密で死んでしまいます。けれども、逆に仲間が少なすぎた場合も問題になります。仲間との協力なしでは生きていけないからです。人間も含めた多くの生物は、周囲にいる仲間の数によって生死が切り替わるスイッチのようなものだと言えます。