さらに左側に、飯田濠と呼ばれた江戸城外濠があり、飯田橋の先で大曲から流れてくる神田川と合流していた。江戸期から明治期にかけて、この飯田濠界隈は水運の要衝として大いに栄えた。ことに石材、材木、酒、油樽など、陸路では運べない物資を飯田濠北岸の神楽河岸(飯田河岸とも呼ばれる)から陸揚げしていた。この由来から当地は「揚場町(あげばちょう)」と名付けられ、今も町名は存続している。
都電の背後に見える土蔵は江戸時代から続く酒問屋「升本総本店」で、都内に残る数少ない土蔵の一つとして知られていた。近隣には燃料店や油問屋も盛業しており、水運が盛んだった時代を彷彿とさせてくれた。
飯田橋交差点から都電の轍音が消えたのは、御茶ノ水線・角筈線を走る13系統が廃止された1970年3月だった。
先日、廃止から半世紀を経た現在の飯田橋を訪ねた。交差点には当時よりもかさ上げされた歩道橋が構築されていた。水を湛えていた飯田濠は暗渠(あんきょ)になり、その上には高層の商業施設が聳えている。外濠通りは六車線に拡幅され、かつての停留所跡は見当もつかない。筆者が記録した映画館や土蔵がある「神楽河岸の街並み」は、こっぱみじんに霧散していた。
■撮影:1968年9月28日
◯諸河 久(もろかわ・ひさし)
1947年生まれ。東京都出身。写真家。日本大学経済学部、東京写真専門学院(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。鉄道雑誌のスタッフを経てフリーカメラマンに。「諸河 久フォト・オフィス」を主宰。公益社団法人「日本写真家協会」会員、「桜門鉄遊会」代表幹事。著書に「都電の消えた街」(大正出版)「モノクロームの東京都電」(イカロス出版)などがあり、2018年12月に「モノクロームの私鉄原風景」(交通新聞社)を上梓した。
※AERAオンライン限定
学生運動の煽りをうけた「飯田橋」の都電15系統最終日 「さよなら装飾電車」は走らなかった…
路面電車がみつめた50年前のTOKYO
AERAオンライン限定
2019/07/06/ 07:00
(3/3) 1ページ目に戻る
暮らしとモノ班 for promotion
2024年の『このミス』大賞作品は?あの映像化人気シリーズも受賞作品って知ってた?
著者プロフィールを見る
AERAオンライン限定に関する記事
あわせて読みたい
あなたへのおすすめ
カテゴリから探す
ニュース
低姿勢で始まった兵庫・斎藤元彦知事の新県政 「職員間の分断」を懸念する声も
dot.
11時間前
教育
光浦靖子、50歳で単身カナダ留学 不安は「飛行機の間くらい」「ゼロ点経験できてよかった」〈酒のツマミになる話きょう出演〉
AERA
9時間前
エンタメ
唯一無二の“鬼”俳優「山田孝之」 民放ドラマに出なくてもカリスマでいられるワケ〈A-Studio+きょう出演〉
dot.
8時間前
スポーツ
松山英樹をまた“勧誘”? 人気面で大苦戦「LIVゴルフ」次なる手は…新リーグの未来はどうなる
dot.
13時間前
ヘルス
「寿命を決める臓器=腎臓」機能低下を示す兆候5つ ダメージを受けてもほとんど症状が表れない
東洋経済オンライン
16時間前
ビジネス
〈見逃し配信〉「下請けでは終わりたくない」町工場で募らせた思い アイリスオーヤマ・大山健太郎会長
AERA
23時間前
教育に関する最新記事
光浦靖子、50歳で単身カナダ留学 不安は「飛行機の間くらい」「ゼロ点経験できてよかった」〈酒のツマミになる話きょう出演〉
日本とハワイでそれぞれの専門分野を研究 子育てもしながら日々を生き抜いてきた戦友
知らないことを「ググる人」は時代遅れ…東大教授が毎日使っている「無料で高性能の検索サービス」
12月“お宝”株主優待は早めに! 実質利回り5%でQUOカードも 約250銘柄保有する“優待弁護士”に聞く
本当に頭のいい人が「会議の前」に絶対すること・ベスト1