その昔、35ミリ判カメラの交換レンズの三種の神器は28/50/135ミリだった。それぞれに広角や望遠の効果がはっきりとしてくる焦点距離であり、開放F値に無理のない一般的なレンズタイプのものなら廉価に販売されていたこともある。今回は28ミリ広角レンズの話だが、現在この28ミリは注目されない地味な存在にもみえてしまい少し悲しい。
これは勝手な推測なのだが、28ミリレンズが地味な存在になったのは、時代を経るごとに標準ズームが35~70ミリに、28~70ミリに、そして24~70ミリにと広角域側に拡大していったからではないか。つまり、標準ズームレンズの中に焦点域(画角)が吸収されてしまうと、途端に同種の焦点距離の単焦点レンズの存在が希薄になるように思えるのだ。
さらに超広角レンズの設計が容易になってきたためか、一般的な写真や映像でも超広角レンズによるダイナミックなパースペクティブ効果を生かした作品を日常的に見られるようになったことも理由としてありそうだ。つまり、われわれは知らないうちに超広角域の画像に慣れてしまい、28ミリクラスでは、画角もパースペクティブも物足りなくなってしまっているのではないのか。
神器たる28ミリの地位が危ういようにも見えるが、一眼レフ、ミラーレス機ともに28ミリ単焦点の交換レンズを用意しているメーカーは多い。カール ツァイスとシグマ、ニコン、ライカカメラでは開放F1.4の大口径レンズをラインアップしているし、ソニーやコシナのフォクトレンダーはF2のレンズがある。ライカレンズには、ほかにF2/F2.8/F5.6の明るさも用意され4種類もある。キヤノンはF2.8と明るさは平凡だが手ブレ補正(IS)内蔵の単焦点小型・軽量レンズを最近になって用意したし、パナソニックでは14ミリ(35ミリ判換算28ミリ相当)F2.5の超小型・軽量レンズが、富士フイルムには18ミリ(35ミリ判換算27ミリ相当)F2のパンケーキレンズがある。