【バリアを突破する「マンパワー」/神足裕司】

 2020年オリンピック・パラリンピックイヤーにむけて東京周辺は、各所でバリアフリー化が進められている。映画やコンサートなどのチケット販売の状況を見ても「車椅子を使用している方とその同伴者が一緒に鑑賞できるチケット」など、以前よりもかなり考えられている。ホテルや飲食店に車椅子OKのステッカーやバリアフリー基準を適用する条例を東京都が改正するなど、少しずつ進んでいるかのようにみえる。

(撮影/倉田貴志)
(撮影/倉田貴志)

 ところが、車椅子の人間にとって街はまだまだバリアだらけだ。もちろん同じ車椅子乗りだって千差万別。自分ですいすい移動できる人もいれば自分では車椅子にさえ移乗できない人もいる。バリアフリー空間を作ってくれているだけでもありがたいと思う。それをわかってあえて言わせてもらえば、車椅子に一度でも乗ってみてこの「バリアフリー」という空間を作っているんだろうか? そう思うことも少なくない。温泉旅館のバリアフリールームに泊まって、部屋の風呂すら入れずに帰ってきたこともある。バリアフリーをうたった飲食店をわざわざ調べていっても断られたり。なかなか厳しい。

 だが、車椅子になって行きづらくなったラーメン屋さんやすし屋さんのカウンター。足も遠のいていたが行ってみると、店はバリアだらけなのに、入り口の段差も車椅子とは高さが合わないカウンターもマンパワーで気持ちよく解消してくれる店がたくさんある。家の近くの焼き肉店だってバリアフリーではないけれど、最善をつくしてくれているのがわかる。

 最近、パリに車椅子で行ってみたいと考えているが、パリの街は東京以上にバリアがはびこっているらしい。メトロにもエレベーターがないところが多い。だが「困ることもそんなにないよ」と知人はいう。「近くに居合わせた人が手伝ってくれるから」だそうだ。

 結局、バリアフリーの基本はマンパワーなんだなあと感じている。いつもありがとう。感謝してもしきれない。

(構成/本誌・鈴木裕也)

週刊朝日  2019年4月26日号