作家、イベントプロデューサー、日本ボクシングコミッション試合役員、など多岐にわたってグローバルな活躍を続けるカルロス矢吹さん。ノンフィクション作品をよく読むそうで、海外へ行く際は、石田昌隆さん著『黒いグルーヴ』を読むんだそうです。そんなカルロスさんに、前回に引き続き、おすすめの本について伺いました。
------カルロスさんは、やはり海外に関連する本を多く読まれるんでしょうか?
「ええ。ダグラス・ビーティという方が書かれた、イギリスのサッカーに関するノンフィクション作品『英国のダービーマッチ』も心に残る作品の一つですね。同じ街を本拠地にしているチーム同士の対戦を、サッカーではダービーマッチと呼ぶんですが、例えば有名なものだとアーセナル対トッテナム。マンチェスターユナイテッド対マンチェスターシティなど。特にイギリスには、同じ街に本拠地があるサッカーチームが複数あるんです。この本では、同じ街のチームなのにどうして仲が悪いチームが多いのかという歴史を丁寧に紐解いてレポートしてくれています」
------この本からはどのような影響を受けましたか?
「スポーツの仕事をしていると、どうしてもテクニカルな面だったり監督の采配だったりに目が行きがちですが、この本を通じて、遥か昔からある歴史的な流れを知ることでより一層面白く観戦できるということを学びました。なので、スポーツ観戦の仕方という意味では大きく影響を受けましたね」
------歴史を知ることでより面白くサッカー観戦ができるのですね。
「はい。イギリスに"タイン・アンド・ウェアダービー"と呼ばれる、サンダーランド対ニューカッスルの試合がありまして。日本ではそんなに有名ではないのですが、これはイギリスの中では必ずテレビで中継されるくらいの注目の一戦なんです。ニューカッスルは、16世紀までさかのぼると、王室に石炭を流していた組織。対してサンダーランドは、反王室側に石炭を流していた組織なんです。400年以上前のイギリスでの闘争をそのまま引き継いでいるわけですが、つまりこの本は、歴史的な構造を僕に教えてくれたんです。試合そのものだけではなくて、その国の歴史や文化を知ると、スポーツ観戦はもっと面白いと教えてくれました」
------なるほど。ほかにも、心に残る本があればご紹介ください!
「近田春夫さんの『考えるヒット』。これは現在も『週刊文春』で続いている好評連載作品です。近田さんは、もともとミュージシャンである内田裕也さんのサポートキーボディストをやられていた方なので、元々は"ロックど真ん中"な方です。この本は、今売れている現代のJ-POPを近田さんが聴いて、その感想をいろいろ語り尽くすという内容が主になっています。時々毒舌を交えながら(笑)」
------どのような感想を持ちましたか?
「『いかに普通を楽しむか?』ということを学びました。例えば、最近ではアマゾンの奥地へ行ってどんな変なものを見たかという内容のテレビ番組なんかが多い気がしますが、住んでいる人からしたらそれが日常なんですよね。その土地に住む現地の人々がどのように過ごしているか、過激なものではなく普通のものをどういうふうに知的に楽しむか、という姿勢をこの本から学びましたね」
------どのような方にこの本をおすすめしたいですか?
「自分と一緒で、田舎に住み続けている人や、上京してきた方におすすめしたいですね。僕も宮崎県出身なので昔はそうだったんですが、田舎の音楽好きってどうしても過激な音楽を聴きがち、褒めがちなんです。そうではなくて、都会の人こそ『ポップス』を楽しんでいます。著者の近田さんは、最近ではコンビニ評論家とも名乗っていて。お寿司とか高いお肉とか、そういったものもたくさんご存知のうえで、コンビニのお弁当がいかにおいしいかということを語ったりしています。"豪華なもの、過激なものも聴くよ。その上でいかに普通を楽しむか"というスタンスはまったく崩れてないんだなと思います。田舎から上京してきて背伸びしたい方にぜひ読んでいただきたいです」
------カルロス矢吹さん、ありがとうございました!
<プロフィール>
カルロス矢吹 かるろすやぶき/1985年生まれ、宮崎県出身。ノンフィクション作家。日本と海外を行き来しながら、音楽、映画、スポーツ、ファッションなど世界各地のポップカルチャーを中心に執筆業を行っている。ほかにもコンサート運営、コンピレーション編集、美術展プロデュースなど活動の幅は多岐にわたる。著書には『のんびりイビサ』(2014年)、『北朝鮮ポップスの世界』(2015年)、などがある。今年1月に上梓した『アフター1964東京オリンピック』では、1964年に開催された東京オリンピックに出場した選手にインタビューを行い、12人の選手のその後の人生を掘り下げている。