1956年から毎日新聞に連載された動物文学が甦った。主な舞台は北海道の大雪山連峰。サーカスから逃げたオオカミを母に、北海道の猟犬を父に持つキバはヤマイヌのリーダーとして君臨する。一方で傷を手当てしてもらった牧場の娘、早苗になつく。その二面性が読者を揺さぶり続ける。

 キバの家族や子分。早苗の両親や友人たち。アイヌの猟師の父子。人を襲うヒグマ、片目のゴンなど大雪山の生き物たち。キバに敵意を持つ、あるいはキバで儲けようと企む人間。個性豊かな脇役に揉まれて成長したキバは、1954年秋、洞爺丸台風が北海道を襲った夜に一世一代の勝負をかける。

 人間と動物、動物同士の関係は緊張感に満ちている。死は身近で、現代のペットブームとは対極だ。生命の気高さ、自然との向き合い方を教えられる。(中村智志)

週刊朝日  2019年3月1日号