1957年の東欧に潜入したコロンビアの作家ガルシア=マルケスによるルポルタージュ。新聞記者だった著者は、冷戦によって東西陣営を隔てていた「鉄のカーテン」を「赤と白のペンキを塗っただけの木製の柵」と表現し、「人は完全に常識を失い、比喩的な表現を文字通りに受け取るようになる」と書く。

 著者は「壁」建設前の東西ベルリン、アウシュビッツ強制収容所、スターリンとレーニンが横たわるモスクワの霊廟、ハンガリー暴動の傷跡が生々しいブダペストなどを訪問。小説的な着眼点とジャーナリズム的な正確さで、特殊な政治状況とそこに生きる人々を描き出す。

 歴史的資料としてだけでなく、小説家になる前の作品としても興味深い。著者を世界的に有名にした『百年の孤独』はこの東欧取材の10年後に発表された。(福島晶子)

週刊朝日  2019年2月1日号