ノンフィクション作家の著者が認知症になった人たちを訪ね、話を聞いたルポだ。

 39歳で認知症と診断された男性は、記憶障害があるものの会社員を続けている。道に迷ったら「若年性アルツハイマー本人です。ご協力お願いいたします」と書いたカードを見せる。言われたくない言葉は「どうして」「なぜ」という詰問。失敗を誰よりも恐れているのは本人だからだ。57歳のシングルマザーは、靴の左右がわからないため印をつけている。記憶は大丈夫だが、空間認知障害があり、財布にお金を出し入れするのが困難。買い物はレジの人が親切な店と決めている。助けてもらえると知ってから、行動範囲が広がった。

 障害は「十人十色」。何に困っているかを知れば、本人も介護する人も楽になる。当事者の個性がうかがえるアプローチがいい。(朝山 実)

週刊朝日  2019年1月25日号