レカネマブの発表資料より。偽薬よりレカソマブをとった人の群のほうが、25・5カ月時点で、7・5カ月分進行が遅かったことになる、というグラフ
レカネマブの発表資料より。偽薬よりレカソマブをとった人の群のほうが、25・5カ月時点で、7・5カ月分進行が遅かったことになる、というグラフ

 数々の治験の失敗で、この地球上から消えてしまった製薬会社もあったが、しかし、研究者たちはその失敗した治験を見ながら、治験の設計を変えてきた。そのことを多くのメディアはわかっていない、と前回指摘し、「レカネマブ」の治験第三相は、先行する他の薬の失敗をおりこみ、絶妙の設計になっている、だから、「どちらに転んでも言い訳のきかない」結果になる、アルツハイマー病治療薬開発にとって「運命の日」になると書いたのだった。

 雑誌発売の翌日、レカネマブは、認知機能の悪化を27パーセント抑制し、主要評価項目、副次的評価項目ともにすべて達成したと発表された。

 さて、私が注目をしたのは、レカネマブに遅れること1カ月半後に発表されたロシュ社(スイス)のガンテネルマブの治験結果だ。こちらは、ほぼ「レカネマブ」と同じ治験設計だったにもかかわらず、「統計的有意差はない」という結果になってしまったのだった。

 そしてその詳細なデータが、このCTADで発表されるという。

 参加してみて、感じたのは、失敗した治験の結果からこそ、共有し、学ばなくてはならない、という製薬会社、研究者たちの強い意志だった。なにせ、ロシュ社は2010年からこの薬の治験を始め、一度は結果が出ずにあきらめていたのを、高容量を皮下注射で投与する方法であらたにフェーズ3の治験を始めたが、その結果は偽薬群とくらべて「有意差がない」だったのだ。さぞかしがっかりしているだろうと思ったのだが、パネルディスカッションの冒頭で、ロシュ社の神経変性部門のトップであるレイチェル・ドーディはこんな発言をしている。

「最初に設定した治験の評価項目をわれわれは達成できなかった。しかし、ここにその明確なデータがある。今回の結果のデータそれ自体が、われわれのみならず、ここに参加している皆さんの将来の治療薬の開発にとって、とても重要な意味を持つ」

 そのドーディの言葉をうけてワシントン大学のランディ・ベートマンはこう言った。

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