官僚のセクハラからスポーツ界のパワハラまで、多くのハラスメントに揺れた2018年。井上由美子『ハラスメントゲーム』は今年らしい一冊かもしれない。
主人公の秋津渉は53歳。大手の老舗スーパー「マルオーホールディングス」のコンプライアンス室長である。かつては花形部門・店舗開発部の部長だったが、パワハラを理由に地方店の店長に左遷され、7年ぶりに本社に呼び戻された。一方、秋津の唯一の部下である高村真琴は急遽着任した室長に一抹の不安を感じている。
なにせ着任早々、秋津はいったのだ。<君は四年目だろ。二十五を過ぎてるのに気の利いた返しもできないような女はいらないんだよな>。ひえ~。しかしもちろん、これはひっかけ。<今のは、セクハラ? パワハラ? コンプライアンスは詳しくないから教えてください>。で、<真琴ちゃんか。よろしくね>と手を差し出した。
迎え撃つ真琴も負けてはいない。<そういう呼び方はコンプライアンス室長にふさわしくありません><二十五を過ぎてるのにという年齢差別、並びに女と呼ぶ表現はセクシャルハラスメントにあたります。また、いらないんだよという脅迫、握手を強要する行為は、人事権を持つ上級職によるパワーハラスメントにあたります>
放送中のテレビドラマの原作。ドラマでは秋津を唐沢寿明が、真琴を広瀬アリスが演じているが、コンプライアンス室が正義であるってあたりが今っぽいよね。
<生活に疲れたようなパートのおばさんがおにぎりなんかを売ってるのを見ると、がっかりする>という社長発言がセクハラなら、<ここだけの話、女性の上司が来たら、地獄ですよ>という交渉相手との軽口はモラハラだ。アルハラ、エイハラ、スモハラ、マタハラと、増殖してゆくハラスメント。
ぼやぼやしてると<コンプライアンス室長がパタハラを知らないんですか?>と呆れられる。パタハラとはパタニティハラスメント。育児をする父親への嫌がらせのことである。ヤバイ発言、みんなしてそう。勉強しないと。
※週刊朝日 2018年12月7日号