「歳時記」とは四季折々の風物などを解説する書物のことだが、本書は古典文学や古くからある文化について季節ごとに章立てして解説する。平安文学が専門である著者が大学のウェブサイトに連載していたコラムをまとめたものだ。
「春眠暁を覚えず」の詩の「暁」に役人になれなかった孟浩然の劣等感を見る解釈や、芭蕉の「古池や」の句の解釈にまつわる論点の整理など、古典をより深く学びたいと考える読者にとっての優れたガイドになっている。
道長の「この世をば」の歌がなぜ『小右記』にだけ書き残されたのか、という論考も面白い。天皇不敬の内容であることから道長が記録をためらった一方、不敬の証拠を押さえるべく藤原実資が書き留めたのではという説だ。
読みやすい文体だが内容は濃い。
※週刊朝日 2018年11月30日号