肌にふれるひんやりとした空気に季節の移ろいを感じながら、風景を撮る。日常から解き放たれた心の軽やかさ。旅先での時間の流れとさまざまな出会いが胸に刻まれ、風景の印象をより深くする。美しい紅葉がドラマチックに目の奥に焼きつけられる。「アサヒカメラ」10月号では秋の風景の撮り方を特集。ここでは、写真家・福田健太郎氏による「落ち葉の写し方」を紹介する。ぜひ、撮影の「引き出し」にしてほしい。
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季節の移ろいをはっきりと感じさせる落葉の風景に哀愁の感情が揺さぶられるのは、ごく自然なことだろう。
写真Aは、小雨降るフラットな弱い光に包まれるなか、橋の上から俯瞰撮影したもの。水深は浅く、石の上に落ち葉がうまい具合に点在していた。
水面はどこも一定の距離で、このように奥行きのない風景に対しては、レンズの絞りを特に深く絞り込まなくても画面全体をシャープに写し出すことができる。
しかし、このときは、静寂さを誘い、落ち葉を目立たせたいねらいから、低感度に設定して絞り込み、シャッター速度を2秒と遅くし、水の流れを滑らかな動感描写へと変化させた。
紅葉といえばカエデだが、落ち葉の風景といわれれば、イチョウを思い浮かべる人が多いだろう。
剪定(せんてい)に強く、街路樹としてたくさん植えられている。大きく育ち、火に強い性質があるため、神社仏閣、学校でもよく見られる。イチョウはいっせいに落葉し、黄色の絨毯を敷き詰めたようなフォトジェニックな風景が現れる。
■絞りのコントロールで印象を変える
落ち葉の風景でムードを高めるには夕方の光を浴び、暖色に染まるタイミングで見つめるとよく、逆光を選ぶと輝きを増す。写真Bは、まさにオススメの時間帯、光線状態で撮影した一枚。段々になった傾斜地にたくさんのイチョウが植えられ、12月中旬に訪ねると、フカフカの落ち葉がびっしりと敷き詰められていた。
日陰のイチョウの幹はシルエットに描写され、連なった形が際立った。画面全体をシャープに、リアルに再現したかったので、ピントは画面左手前、木の根元ラインの落葉に合わせてf16まで絞り込んでいる。そうすることによって被写界深度が深くなり、このように奥行きのある場面でも画面全体にピントを合わせられる。
PLフィルターを使い、白っぽい落ち葉の表面反射をできるだけ抑え、黄色を鮮やかに出した。
同じく、夕方の光で撮影した写真Cは、カメラの位置をローポジションに置き、水平にレンズを向けての撮影で、画面に奥行きを生み出している。レンズの焦点距離は90ミリで、絞り開放のf2.8を選択。ピントの幅はごく浅く、一面にしか合っていない。低いカメラ位置と画面手前のピント位置によって、背景に広がる風景をぼんやりと伝えた。ホワイトバランスは「日陰」に設定して赤みを増した。ボケ描写と深い暖色の組み合わせで晩秋を語らせている。
(写真・文/福田健太郎)
※「アサヒカメラ」10月号から抜粋