世界の紛争地域を研ぎ澄まされた感性で見つめ描き出した短編集。1997年、「戦争と平和」をテーマにしたテレビ番組のレポーターの仕事を受けた「私」は、半ば受動的に赴いたエリトリアやユーゴスラビア、カンボジアなどでさまざまな衝撃を受ける。

 全編を覆う鬱屈は「私」の神経の過敏から生まれている。戦地や兵士に対して驚くだけでなく、蛍の光や一輪の花にも驚愕するのだ。頼もしい戦場ルポとはまったく異なる本書の表現になぜか懐かしいものを感じるのは、現代が冷笑の時代だからかもしれない。著者は自身の感覚を「未だに二一世紀になじんでいない」と吐露しているが、悲劇のひとつひとつに胸を痛めることを愚鈍だとわらう時代に、傷つくことのできる「私」のようなあり方こそ真っ当なのではないか。

週刊朝日  2018年10月19日号