平成の終わりを見すえ、そろそろこの30年をふりかえる本が出はじめた。藤井達夫『<平成>の正体』の副題は「なぜこの社会は機能不全に陥ったのか」だ。キーワードは「ポスト工業化」「ネオリベラリズム」「格差社会」「ポスト冷戦」「五五年体制の終焉」「日常の政治」の六つ。まさに!って感じがしませんか?

 ざっくりいうと平成は、経済的にはネオリベ的な政策で生活の安全が破壊され、労働が不安定化し、格差と分断が広がって、中流意識が崩壊した時代。政治的には55年体制の終焉後、権力の集中が進んで代表制民主主義が機能不全に陥った時代だった。その結果はびこったのは「自己責任論」。

 わかっちゃいたけど、まー、ろくな時代ではない。きちんとした議論の合間に挟まる著者の嘆きにいたく共感してしまう。

 近代の民主主義は権力の集中と政府の暴走に歯止めをかける知恵をいろいろ張りめぐらしてきたはずなのに、平成の政治改革は「政権交代」「決められる政治」「既得権益」といったフレーズで官僚叩きや既成政党叩きに励む世論に同調した。<近年、当時の改革者からは、「こんなはずでは……」といった言葉もちらほら聞かれるが、むなしく響くばかりだ>

 まったくだよ。

 90年代中盤に、日本は昭和の「工業化社会」から「ポスト工業化社会」に移行した。終身雇用・年功序列賃金の下で、仕事も家庭も教育も回っていた「戦後日本型循環モデル」はポスト工業化社会では機能しなくなった。

 そんな時代を生きぬく方法は三つあると著者はいう。(1)この状況を引き受けて、不安に耐えつつよりよい未来を信じて手探りする。(2)フェイクでも何でもいいから、威勢のいい政治家、偽りの歴史や伝統、弱者への暴力など、いまの不安を取り除いてくれるものに依拠する。(3)無関心になる。

 結果的には(2)(3)が多いよね。<こうして見ると平成の日本は惨憺たるものだ>。ほんとだよ。昭和のアンチだった平成。次の時代はせめてアンチ平成になってくれ。

週刊朝日  2018年10月12日号