新しいiPhoneが出るそうだが、気になるのは同時に発表された腕時計だ。心拍数に異常があると知らせてくれて、転倒したら緊急電話もかけてくれるとか。この時計を買える人は長生きできて、そうでない人はそれなりに、ということになるのか。

 ユヴァル・ノア・ハラリの『ホモ・デウス』は、世界的ベストセラーとなった『サピエンス全史』の続編であり未来予測編である。デウスとは神のことであり、人類のさらなる進化を意味する。

 もはや人類は飢饉と疫病と戦争の恐怖から解放された、と著者はいう。もちろん現在も飢えに苦しみ、紛争で死ぬ人はいる。だが現代の飢饉・疫病も紛争も政治がもたらすものであり、その気になれば避けられる。かつてのように、神に祈るしかない厄災ではなくなった。では、これから人類はどこに向かうか……というスケールの大きな話が本書である。人類の歴史を振り返り読み替える著者の文章は饒舌で、エンターテインメント小説のように痛快だ。

 著者は歴史学者であって、予言者でも占師でもない。本書で示されるのは現時点で考えられるいくつかの可能性である。未来の鍵を握るのは科学と技術の進歩、とりわけコンピューターとバイオテクノロジーであり、データとその演算処理技術だという。

 気になるのは格差の拡大だ。腕時計で健康管理できるお金持ちが科学と技術で“超人”となり、データとその演算処理を握るのだろうか。それとも、富をみんなで分けあい、環境汚染や気候変動を克服していくのか。未来を選択するのはAIではなく人間……であってほしい。

週刊朝日  2018年10月5日号