
14歳で逝った先代猫との別れがあまりにつらかったため、「もう二度と飼うのはよそう」と言ったのは私でした。道端で猫を見かけると「おいでおいで」と声をかける妻に「情が移るからダメ」。シッシッと追い払ったものです。
秋も深まったある日、いつもの早朝散歩で海の近くを歩いていたときのこと。生け垣の中から突然、その子は飛び出してきました。そして、フィギュアスケートのように私の足の間を8の字を描きながら進みました。生まれてからまだ間もないと思われる小さな子猫でした。
10メートルくらい一緒に歩いたところで、踏みつけそうになるからと生け垣の中にそっと戻してやる──というのが数日続き、ついに私はその子猫を上着の懐に入れて連れ帰ってしまいました。
猫は飼わないって言ったのはあなたじゃないの!と、てっきり叱られるものと覚悟して対面してもらった妻も、「可愛い!」とメロメロに。秋に出会ったので「モミジ」(写真、雌、8歳)と名付けました。
カラスやトンビから身を守るために隠れていたからでしょう、モミジは超がつくほどのビビリ猫。ちょっとした物音にもびっくりして跳びあがって逃げていきます。
店に来られるお客様と目が合うと、物陰に隠れたまま出てきません。
連休で娘夫婦、孫たちが泊まりに来たときも、帰るまでの3日間、鳴き声一つたてずに床下でじっとしていました。夜には食べるだろうと置いておいた餌も一口も食べずに!
時がたち、店に来られるたくさんのやさしいお客様と触れあい、モミジもいまでは人間大好き、立派な看板猫になりました。今日も朝からカウンターの上、ウィンドーの中で招き猫をしているのでございます。
(猪口裕史さん 島根県/66歳/写真館経営)
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